羊と鋼の森  宮下奈都

  • 2018.06.20 Wednesday
  • 07:38

JUGEMテーマ:読書

 

 

高校生の外村は諦めることが日常だった。

閉ざされた田舎に住み、自分には才能もなく何かに夢中になれるものもない。

そんな虚無感に似た感情を飼いならしながら何となく日々を過ごしていた。

そんなある日、ピアノを調教するため学校にやってきた板鳥の音が、閉ざされていた外村の中の何かを掘り起こす。

自分が求めていたものはコレだ。

突如湧いてきた感情のまま、彼は調教師への道を歩くこととなった。

だがその道は平坦ではなく、ピアノに触れたこともなかった外村にとっては過酷な道だった。

コツコツと。ただひたすらまっすぐにピアノに向かう日々。

そんな彼を、ピアノを愛する姉妹や口の悪い先輩、そして憧れた調教師の板鳥らが厳しくも暖かなまなざしで成長させていく。

 

13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 1位という快挙を成し遂げた感動の作品。

まず、静かな森のイメージが頭一杯に広がりました。

それは外村が経験してきた、生きてきた証そのもの。

そして彼の根幹である静謐な空気感。

それが音と一緒になって周りを包み込みました。

小説ですから音はありません。でも聞こえてくるような気がするのです。

まるで歌のように。詩のように。綺麗な空気と言葉が音を運んできてくれるのです。

圧倒されました。

そして一気に読み込んでしまいました。

音がこれほど美しい言葉を紡ぎだすとは・・・・。

私は小さい頃ピアノを弾いていました。

音は常に私と共にありました。

けれど私はそれを言葉にすることが出来なかった。イメージとしては頭に浮かぶのだけど、それを文字に表すことが出来なかった。

あの頃の気持ちや鍵盤の重さ、ペダルの音。そういうものを思い出しました。

この作品を映像化すると聞いて、ますます興味が出てきました。

音が言葉になり、またそれが画になる。

一体どんな表現をしてくれるのか、楽しみです。

烏に単は似合わない

  • 2018.05.24 Thursday
  • 20:19

JUGEMテーマ:読書

 

 

 

人間に変化することが出来る「八咫烏」の一族が支配する世界・山内。

朝廷で権力を握るのは、4家の大貴族。

身分の上下がキッチリと分かれ、厳しい戒律がある世界で暮らす彼らの関心事は、ただ一人の長・若宮の后を誰にするかということ。

大貴族それぞれの思惑が絡み合う中、四人の后候補もまた、家を背負ってこの勝負に挑んでいた。

そんな中、次々と事件が起こり・・・。

 

 

この世界観、すっごく好きです。

人の姿に変化する烏。山内を統べる4大貴族。山内の外の世界との繋がり。

どうして烏は人の姿になれるのか。また、なぜ人なのか。

天狗や大猿の世界のこと。

政治的思惑・・・・どの話もぐいぐい物語に引き込まれます。

ライトノベルなので読みやすいのも嬉しい♪

シリーズなので、次の展開が楽しみです。

 

愛を乞うひと   下田治美

  • 2018.05.22 Tuesday
  • 07:35

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台湾人の父親と母親の元に生まれた照恵。

彼女の母親は激しい気性の人で、ある日突然、彼女は父親と共に家を追い出されてしまった。

その後、すぐに父親が亡くなり、施設に預けられるが、10歳で再び母親と暮らすことになる。

だがそれは地獄の始まりだった。

母親は次々と男を替え、照恵の名字もその都度変わり、そして体には無数のアザが刻まれるようになった。

母親に幾度も殺されそうになった8年間。

中学卒業後、やっと就職して自由を得たかにみえたものの、執拗な母親からの攻撃に、切羽詰って裸足で家を飛び出した。

それから数年。真面目に働いて、結婚して、子供を育て、ひと段落した照恵は、父親の遺骨を探す決意をする。

それは、本当の意味での母親との決別の旅となるのだろうか・・・・。

 

壮絶な虐待です。

『世間体が悪いから引き取った』というまさに手前勝手な言い分に怒りを覚えます。

照恵は最強のサバイバーです。

よく生き残ったね!と抱きしめてあげたい。

そして、明かな虐待でも、警察も役所も介入できなかったという体制に心が恐怖で震えます。

今でも積極的な介入とはいかないので、あまり進歩はないのかもしれませんが・・・。

 

照恵は、理由があれば母親を許せるかも、と始めは言ってました。

けれど、子供を虐待する母親の心情など理解しなくてもいいのだと気付きます。

虐待された子供は、何らかの理由を欲します。

自分を納得させるために。

子供にとって親は神です。絶対無二の存在です。

その親から拒絶された子供はどうやって生きていけばいいのでしょう。

人生の設計図をどうやって描けばいいのでしょう。

 

虐待の連鎖を断ち切ることが出来たのは、照恵の周りの人たちが彼女を愛してくれたからだと思います。

その愛が、彼女の人生をマトモなものにしてくれたのです。

もし、養育者に適性がなかったとしたら、自分と未来を守るために、見捨ててもいいのだと。

それは罪悪感を覚えることではないのだと。

この物語は教えてくれているようです。

 

あしたの君へ   柚月裕子

  • 2018.04.28 Saturday
  • 09:06

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少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導く、家庭裁判所調査官という職業に就くべく、見習いとして望月大地は日々を過ごしていた。

先輩たちから親しみを込めて、『カンポちゃん』と呼ばれる家裁調査官補。

そろそろ実際に案件を担当してみようと言われたが、及ばないことだらけに自信を失う。

それでも、悩んでいる人の役に立とうと懸命に、真摯に立ち向かう。

 

人の心は複雑で。

他人に自分の心をさらけ出すことに抵抗感があり。

また自分の感情を正しく言葉にすることは難しい。

そんな人間と向かい合い、問題を正しく読み解き、客観的な事実を見据えて当事者にとって一番良い解決法を探す。

とても難しい仕事ですね。

そして必ずしもありがとうと言われるわけではない。

報われないことも多いでしょう。

でも望月は自信喪失しながらも投げ出さず、逃げださず、食いついていきます。

自分の問題に、ここまで真摯に向き合われると、重荷が少しでも軽くなる気がします。

それにしても。

世の中にはいろんなトラブルがあるもんですね。

ねこのおうち    柳 美里

  • 2018.04.19 Thursday
  • 07:40

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血統書付の綺麗な猫が脱走して子猫を孕んだ。

生まれた子猫はへその緒がついたまま、公園に捨てられる。

毎日、その公園で猫に餌をやっている老女がたまたま見つけて保護。ニャーコと名付けて飼いネコになった。

それから穏やかな日々が過ぎ、老女もネコも幸せな毎日を暮していたが、ある日を境に老女が認知症となり、ニャーコの暮らしは一変。

住む場所も奪われてノラ猫になってしまった。

それでも逞しく生きていたニャーコはやがて子猫を産み、母猫に。

ところがノラが生きていくには世界は厳しくて・・・・。

 

 

『猫に餌をやるな』と町内会から言われながらもノラ猫たちに手を差し伸べてきた人たち。

犬や猫はそもそも人が管理してきた歴史が長いので、これからもしっかりと管理していかなければいけないのに。。。。

殺処分になったり人に迷惑をかけることになったりする子が本当に多い。

猫嫌いな人もネコ好きな人も、気持ちよく暮らせる街になればいい。

捨てる神あれば拾う神ありというけれど、拾われなくても生きていける世の中が一番理想。

そして。

歳をとって動物と暮らすことが当たり前に簡単に出来る世の中の仕組みが出来れば、孤独死も防げるような気がするのだけど・・・。

 

朝が来る     ・・・辻村 深月

  • 2018.03.28 Wednesday
  • 07:41

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ごく普通の親子だった。

母親と父親と一人息子の三人家族。

仲よく穏やかに暮らす栗原家に、ある朝一本の電話がかかってきた。

「子どもを、返してほしいんです」

それは、息子の産みの母だった。

子供を持てなかった夫婦と、子供を手放さなければならなかった少女の人生が交差する。

 

 

栗原家は本当に素敵な家庭です。

子供を一人の人間として尊重し、きちんと親子としての絆を作ろうとしていて、子供の産みの親への気持ちも持っている。

お手本のような里親さんだと思いました。

こういう家なら、反抗期になっても、『本当の親でもないくせに』なんて言葉は出てこないだろうなと感じます。

一方、産みの母親である少女もごく普通の少女です。

どこにでもいる。ちょっとマセた女の子。

先を読む力が少し欠けていただけで、問題もほとんど見られません。

ほんの少しの息苦しさを感じていて、ほんの少しハメを外したいと思っていて、その結果、息子の人生に影を落としてしまった。

けれどまだ間に合います。

栗原家と接触したことで、少女は軌道修正するでしょう。

少女もまた、ここから生まれなおすのです。

木漏れ日に泳ぐ魚

  • 2018.03.26 Monday
  • 18:05

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別々の道を歩くことにした一組の男女。

最後の夜、二人は棘のように心に刺さった問題を解決するため、慎重に、重たい空気を背負い、語り始めた。

少しずつ明かされていく過去。その中に違和感が混じり始め―――。

朝の光と共に真実はさらされていく。

 

ラストはなんとなく透けて見えましたが、そこに行きつくまでの探り合いがねっとりと重苦しく、憂鬱になります。

謎が解明されているのか、それとも深まっているのか、分からなくなるような物語でした。

働かないの ―――レンゲ荘物語

  • 2018.03.17 Saturday
  • 18:31

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こんな私に親切にしてくれてありがとう――四十八歳になったキョウコは、まだ「れんげ荘」に住んでいた。

相変わらず貯金生活者で、月々十万円の生活費で暮らしている。

普段は散歩に読書に刺繍、そして時々住人のクマガイさんらとおしゃべり――そんな中、「れんげ荘」にスタイル抜群の若い女性がリヤカーを引いてやってきた!

悩みも色々あるけれど、おだやかに流れる時を愛おしみながら、ささやかな幸せを大切に生きる、ロングセラー「れんげ荘」待望の第二弾(アマゾンより抜粋)

 

何もしない。

10万円でもここまで生活できる。

読んでるとだんだんとまったりした気分になれます。

せかせかしてる世の中のほうがおかしいんじゃないかと感じてきます。

形ある物に執着しなければ、人は生きていけるものですね。

鹿の王   上 下

  • 2018.03.15 Thursday
  • 13:53

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生きることに意味を見いだせなくなった男たちが、侵略者から故郷を守ろうと奮闘していた。

死を恐れない戦士団『独角』

だが他国から恐れられたその団体も、ついに終焉を迎える。

独角の頭であったヴァンは、奴隷として岩塩鉱に囚われ、固い岩盤を掘らされることとなった。

劣悪な環境で働かされる奴隷たちは侵略された各国の人々。

言葉の通じない作業場の中、深夜、ある騒ぎが持ち上がる。

狼のような犬が襲ってきたのだ。

犬に噛まれた奴隷たちは謎の奇病に罹り次々と命を失っていく。

ヴァンは一命を取り留め、穴倉から逃げ出した。

囚われていた奴隷の中で助かったのは、ヴァンと幼子のユナただ二人。

ヴァンはユナを連れて長い逃亡の旅に身を投じるが、追っては様々な形で二人に迫っていた。

 

国の思惑や人の思惑が交差してとても複雑になってます。

民族間の軋轢や宗教観、最新の医学。ヴァンの行く先には障害がたくさん。

それぞれが良かれと思って行動していることが、いち個人を追い詰め、生活を奪い、人生を狂わせていく。

負けないで生きていくことは並大抵のことではないと思わざるを得ないストーリーでした。

関係が難しすぎて私には入り込みにくい作品でもありました。

あちこちに物語の主役が飛んじゃうのも原因かな。

たとえ、世界に背いても

  • 2018.03.13 Tuesday
  • 07:36

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紫斑性筋硬化症候群という奇病を研究し、その治療法を確立した浅井由希子博士は、ノーベル賞受賞の場でこの病に冒された息子について語り始めた。

初めは息子のために研究に没頭した彼女を称える雰囲気のあった会場は、だが博士の「私の息子は同級生達に殺された」という一言でざわついた。

次いで、「いじめに加担した元同級生たちに死の裁きを与えない限り、新たな奇病で人類は死に絶える」という宣言で凍りつく。

天才科学者による未曾有の復讐劇に人類は恐怖と混乱に陥り、元1年B組の生徒達は全世界から敵視される存在となった。

 

 

恐ろしい話です。

理性が別の次元へ行ってしまった天才科学者には誰も太刀打ちできないということでしょうか。

初めは息子に対するイジメの凄惨さと不誠実な学校の対応への怒りと悲しみと憤りから始まった物語。

それだけならほとんどの人が彼女に同調し、同情し、一緒に憤ることが出来るでしょうが、そこからベクトルが人類への切り捨てへと推移していくなんて誰も思わないでしょう。

 

イジメは簡単にはなくなりません。

どんなに悲しいことだと分かっていても、他者を傷つけても守りたいものがあると思っている人たちがいる限り、完全になくすことは出来ないでしょう。

 

博士は何が見たかったのか。

たんに人類に絶望してしまったのか。

それとも、自分に立ち向かい、たとえ自分や愛する人が死んだとしても、他者を殺さないでいることが出来る人たちを待ち望んでいたのか・・・・。

 

博士は神になりたかったのかもしれません。けれど、これは紛れもないテロだと思いました。

自分の欲求を満たすために他者を踏みつける行為。

息子をイジメていた元同級生となんら変わらない行為。

そして、この結末がテロリストだという結論に導いている気がします。

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